なぜアルトリウスは今でも愛され続けるのか?
「ダークソウル」をプレイした人なら、誰もが忘れられない騎士がいるのではないでしょうか。
それが「深淵歩きの騎士アルトリウス」です。
ロードランの地に語り継がれる英雄の中でも、アルトリウスほど多くのプレイヤーの心に深く刻まれた存在はいません。
しかし、私たちがゲームで実際に彼と対峙した瞬間、その「伝説」は無慈悲に崩れ去ります。
古びた円形の闘技場で出会うのは、かつての栄光の面影もない、深淵に蝕まれた一人の騎士。誇り高き狼の紋章を刻んだ大盾はどこにもなく、力なく垂れ下がった左腕が彼の敗北を物語っています。
なぜ深淵を退けたとされる伝説の英雄が、深淵の傀儡と化してしまったのか?
この記事では、アルトリウスの物語を時系列で詳しく追い、伝説と真実の間に横たわる悲劇の本質に迫ります。
アルトリウスの物語を時系列で完全解説
【第1章】伝説の始まり:四騎士としての栄光
グウィンの四騎士として歴史に名を刻む
アルトリウスの名が歴史に刻まれたのは、太陽の光の王グウィンの四騎士の一人としてでした。
✅ 比類なき大剣の使い手として知られる
✅ 「鋼の如き折れぬ意志」を持つ騎士
✅ 小ロンドでの深淵討伐で「深淵歩き」の称号を得る
小ロンドの悲劇と深淵との最初の遭遇
アルトリウスの伝説を決定づけたのは、小ロンドの街を襲った深淵の脅威でした。
人のソウルの本質である「闇」から生まれた「深淵」が小ロンドに溢れ、四人の公王と彼らの騎士たちは闇の眷属「ダークレイス」へと堕落してしまいます。
この人ならざる脅威を討伐するため、アルトリウスは禁断の選択をします。
深淵の魔物と契約を交わし、深淵を歩くための力を手に入れたのです。
この契約の証が「アルトリウスの契約」の指輪であり、彼は「深淵歩き」の称号を得ました。
しかし、その代償として彼の大剣は呪われたものとなりました。
【第2章】ウーラシールの悲劇:英雄の陥落
魔法の国ウーラシールで再び牙を剥く深淵
数百年後、魔法の国ウーラシールで再び深淵が暴れ出します。
ウーラシールの魔術師たちは、おそらく世界蛇カアスの誘いにより、墓所に眠っていた「原初の人間」マヌスを掘り起こしてしまいます。
目覚めたマヌスの暴走した人間性は深淵そのものとなり、ウーラシールの地と人々を飲み込み始めました。
最後の戦いと究極の自己犠牲
囚われた宵闇の姫を救うため、アノール・ロンドは再びアルトリウスを派遣します。
彼は以下の装備を携えてウーラシールへ向かいました:
✅ 深淵の闇の魔術を弾く「銀のペンダント」
✅ 生涯の相棒である若き大狼シフ
✅ 揺るがぬ意志と超一流の剣技
しかし、マヌスを中心とする深淵の力は、アルトリウスの想像を絶していました。
彼の鋼の意志も、銀のペンダントの加護も、圧倒的な闇の前には及ばず、ついに敗北を喫します。
深淵に呑まれ、正気を失う寸前、アルトリウスは最後の意志を振り絞りました。
自らの大盾に魔法の結界を張り、相棒シフをその中に匿って守ったのです。

この自己犠牲の行為により、彼の左腕は砕け、完全に無防備となってしまいました。
【第3章】偽りの伝説の誕生:歴史から消された真の英雄
名もなき英雄(プレイヤー)の活躍
ここで物語の真の主役が登場します。それがプレイヤー、すなわち「選ばれた不死」です。
マヌスの手によって100年前の過去、ウーラシールへと引きずり込まれたプレイヤーは:
✅ 深淵で闇の眷属に囲まれていたシフを救出
✅ 狂気に堕ちたアルトリウスと対峙し、激闘の末に討伐
✅ 深淵の奥底でマヌスを打ち破り、宵闇の姫を救出

歪められた記憶と美しい嘘
しかし、この英雄的行為が歴史に残ることはありませんでした。
深淵での過酷な体験により心身ともに衰弱していた宵闇の姫は、自分を救った人物がアルトリウスであったと誤解してしまいます。
彼女の記憶の中で、名もなき不死の功績は、悲劇的な最期を遂げたアルトリウスの武勲へとすり替わったのです。
この「偽りの伝説」は、アルトリウスの仲間たちによっても補強されます。
同僚のキアランとゴーは、友が深淵に敗れ、堕落したという不名誉な真実を隠し、英雄としての「名誉」を守ることを選びました。


『アルトリウスのソウル』のテキストには、こう記されています:
「アルトリウスが深淵を退けたという伝説は、物語の半分に過ぎない。どうやら彼は敗れ、その名誉は、真の深淵の勝利者である、名もなき英雄によって保たれたようだ」
アルトリウスの真の英雄性とは?
狂ってなお失われない剣技
アルトリウスが「狂ってなお英雄」と呼ばれる理由は、彼の戦う姿そのものに刻まれています。
盾を捨て、左腕を砕かれながらも、その剣技は少しも衰えません。
✅ 宙返りからの叩きつけ
✅ 回避不能な突き
✅ 狼を彷彿とさせる回転斬り

その一つ一つが、彼がかつて到達した剣技の極みを物語っています。

盾に込められた真の騎士道精神
アルトリウスが盾を持っていないのは、単に戦闘で失ったからではありません。
若きシフを守るための結界として、自らの意志で放棄したものです。
防御の要である盾を、他者を守るための一度きりの奇跡に使う。
この選択こそ、彼の騎士としての本質を何よりも雄弁に物語っています。

死を超えた絆:シフとの関係
アルトリウスの物語の感情的な核となるのが、相棒シフとの絆です。
現代の黒い森の庭で、プレイヤーは巨大な狼、シフと対峙します。
シフは主の墓を荒らす者を決して許さず、その口には主人のものと同じ大剣を咥えています。
もしプレイヤーが過去のウーラシールで若きシフを救出している場合、この戦いはさらに悲痛なものとなります。
シフは恩人の匂いに気づき、天に向かって悲しみの咆哮を上げた後、それでもなお主の墓を守るという使命のために剣を構えるのです。
深淵の正体と人間性の関係
深淵とは何か?
アルトリウスの悲劇を理解するには、彼が立ち向かった「深淵」の正体を知る必要があります。
深淵とは、人間が持つ「人間性」が制御不能に暴走した状態そのものです。
世界の始まりにおいて、最初の火から生まれた「闇のソウル(ダークソウル)」を手にした小人の子孫が人間であり、人間性とはこの闇のソウルの欠片に他なりません。
深淵の支配者たち
マヌス:暴走した人間性の権化
マヌスは、かつて「原初の人間」として墓所に葬られていた存在でした。
しかし、ウーラシールの民が彼の墓を暴いたことで、その内に秘められた膨大な人間性が怒りと郷愁と共に爆発し、深淵を生み出しました。
カアス:狡猾な黒幕
世界蛇カアスの目的は、神々の時代である「火の時代」を終わらせ、人間が支配する「闇の時代」を到来させることです。
そのために、彼は:
✅ ウーラシールの民を唆してマヌスを目覚めさせる
✅ 小ロンドの四人の公王に生命喰いの力を与えて堕落させる
✅ 狂わずに闇を統べられる、真の「闇の王」を探し求める
アルトリウスの根本的な敗因
アルトリウスの敗北には、根本的な理由がありました。
彼は神々に連なる者であり、人間ではないため、「人間性」を持たないのです。
人間性の本質である闇を、彼は根本的に理解できませんでした。
皮肉なことに、深淵に打ち勝つことができたのは、同じく人間性を宿すプレイヤー、すなわち不死の人間でした。
他作品との比較:継承される悲劇の英雄像
星砕きのラダーンとの共通点
フロム・ソフトウェアの『エルデンリング』に登場する「星砕きのラダーン」は、アルトリウスと多くの共通点を持つ悲劇の英雄です。
| 項目 | アルトリウス | ラダーン |
|---|---|---|
| 英雄としての地位 | グウィンの四騎士、「深淵歩き」 | 「最強のデミゴッド」、「星砕き」 |
| 汚染の源 | 深淵(暴走した人間性) | 朱い腐敗(外なる神の病) |
| 失墜の経緯 | ウーラシール救援任務の失敗 | マレニアとの決闘での相打ち |
| 汚染後の状態 | 正気を失うが剣技は残存 | 理性を失い人肉を喰らう獣化 |
| 残された意志 | シフを守る盾の結界 | 愛馬のための重力魔法の維持 |
| プレイヤーの役割 | 歴史から消された介錯人 | 祭りに参加する公的な役割 |
物語手法の進化
アルトリウスの真実は隠蔽される個人的な悲劇ですが、ラダーンの悲劇は「祭り」という形で公然と語り継がれる神話的な悲劇となります。
これは、フロム・ソフトウェアの物語手法の進化を示しています。
なぜアルトリウスは愛され続けるのか?
「知の負担」が生む特別な絆
アルトリウスの物語が私たちの心を打つ理由は、プレイヤーが彼の真実を知る唯一の証人だからです。
私たちは:
✅ 彼の最後の戦いに立ち会う
✅ 彼の苦しみに終止符を打つ
✅ その痛ましい真実を一人で背負う
この「知ることの負担」が、プレイヤーとアルトリウスの間に特別な感情的な絆を生み出します。
失敗の中にこそ宿る真の英雄性
結局のところ、アルトリウスが愛されるのは、彼が失敗したからです。
希望の見えない『ダークソウル』の世界において、真の英雄性は勝利の中にではなく、敗北の中にこそ見出されます。
「鋼の如き折れぬ意志」を胸に、たとえ身体が砕かれ、心が壊れ、運命に敗れると分かっていても、自らの信じるもののために戦い続ける姿。
それこそが、この世界における最も気高い魂の在り方なのです。
この生き様は、「エルデンリングナイトレイン」の「追跡者」に通じるものがありそうですよね。
介錯人としての重い役割
プレイヤーは、アルトリウスの苦しみを終わらせる「介錯人」として、あまりにも重い役割を担わされます。
この能動的な関与が、彼の悲劇を他人事ではなく、自分自身の記憶の一部として刻みつけます。
そして数百年後、主の墓を守り続けるシフと対峙する時、私たちはその共有された過去の重みを背負うことになるのです。
まとめ:永遠に語り継がれる悲劇の英雄
アルトリウスは、名もなき英雄が立ち上がるために、誰にも知られることなく堕ちていった英雄です。
彼の物語は勝利の記録ではありません。
しかし、その魂の強靭さの残響は、私たち自身の手によって沈黙させられるまで、確かにそこに在り続けました。
そして、その介錯人となることで、私たちは彼の真実の、悲劇の、そして美しい遺産の、唯一の守護者となるのです。
だからこそ、私たちはアルトリウスを忘れることができません。
彼の名は、今もなお、私たちの胸に深い畏敬と、切ない哀悼の念を呼び起こします。
「深淵歩きの騎士アルトリウス」――それは、ダークソウルの世界が私たちに贈る、最も美しく、最も悲しい英雄譚なのです。
この記事が、アルトリウスの物語をより深く理解する助けとなれば幸いです。彼の悲劇は、私たち一人ひとりが胸に刻み、語り継いでいくべき、かけがえのない物語なのですから。


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